1 研究の概要
(1)主題設定の理由
本校は全校児童16名の完全複式の極小規模校である。現在,国語科,算数科の2教科で複式授業を行っている。複式授業では,教師のいない間接指導の過程が生じる。この間接指導時に児童がどのように学習を進めるかが,授業の大きなカギとなってくる。「自ら学ぶ力」を育て,間接指導時に児童だけで仲間と学習が進められるようにしたい,自ら課題解決に向かう主体的な学習が進められるようにしたいと願った。そこで,研究内容を「自ら課題解決を進める複式学習過程の工夫」「一人一人を伸ばす意図的・計画的な指導」とし,算数科に焦点を当てて実践してきた。
14年度は「効果的な間接指導のあり方」に関わって,主に「複式授業のパターンの定着」と「学習リーダーのあり方」について追究してきた。その結果,間接指導時に学習リーダーを中心に自分たちで学習を進めるパターンが定着してきた。
15年度は「個に応じた指導」と「仲間との学習の仕方」について追究した。一人一人の反応を予想し,つまずきに対する手立てを考えたり,教材や教具を工夫したりすることで,どの子も課題解決に向かって主体的に取り組む姿が見られた。また「学習リーダー育成の学年段階」を考え,取り組むことで,仲間と話し合いながら学習を進めることができるようになってきた。しかし,学年によっては学習の理解における個人差が大きいため,一部の児童が考えを持てず仲間と学習が進まないこともあった。
そこで本年度は,「解決の見通しのもてる課題設定のあり方」と「個に応じた意図的な指導の工夫」を追究し,個人差の大きい中でも,どの子も一人一人が自分の考えを持ち,自力で解決したり,仲間と交流しながら主体的に学習したりする姿を目指そうと考えた。
(2)研究構想図
2 実践の概要
(1)自ら学ぶ力のとらえについて
@算数科における「自ら学ぶ力」の明確化
本校では下記のように児童がどんな姿を見せればよいかで算数科における「自ら学ぶ力」をとらえた。
自ら学ぶ力の具体的な姿
A 授業開始までに自分で本時の学習に必要な学習用具等が準備できる。(で) B 本時学習するところがわかり,教科書やノートも本時学習する場所を出せる。(で) C 与えられた問題(事象提示)から本時学習していく課題をつかむことができる。(で) D 課題解決のためにさまざまな手段を考え,自分で解決していこうとする。(で) E 自分で考えてもよくわからないときは,仲間に相談し,解決していこうとする。(と) F 自分は解決の見通しがもてたり,もしくは解決できた時で,仲間がまだわかっていないときに教えたり,一緒に考えたりすることができる。(と) G 仲間に自分の考えを効果的に表現し,分かってもらうことができる。(と) H 仲間と問題の答え合わせができ,意見が違うときは話し合いができる。(と) I 本時の課題に関わる別の問題をドリル等で探してやりながら,確かな力を身につけようとする。 J ノートに本時学習した内容がわかりやすく記述できる。 K 本時学習したことが,自分の身の回りではどのように使われているかを考えることができる。 L 家庭に戻って,本時学習した内容を復習することができる。 |
A児童の出口の姿の明確化
次に上述の「自ら学ぶ力」を培った際の学年別の願う姿を明確にした。
学年 | 児童の学年終了出口の姿 |
1 | A・B H 学習リーダーを中心に自分たちで問題の答え合わせをすることができ,意見が違うときは,もう一度各自がやり直すことができる。 I 問題をやり終えたら,関係ある問題をドリルから探し,やることができる。 J ノートに日にち,本時の単元名を書き,問題や式,答えなど分かりやすく書くことができる。 |
2 | A・B・D・E・H・I G 黒板やホワイトボードに自分の考えややり方を書いて仲間に示すことができる。 J ノートに自分の考えを書くことができる。 |
3 | A・B・D・E・H・I・J・L C 与えられた問題(事象提示)から本時学習していくおおまかな内容を理解することができる。 G 黒板やホワイトボードに自分の考えややり方を書き,仲間に説明することができる。 |
4 | A・B・D・E・G・H・I・J・L C 与えられた問題(事象提示)から本時学習していく課題をおおまかに理解することができる。 F 自分は解決の見通しがもてたり,もしくは解決できた時で,仲間がまだわかっていないときに教えることができる。 K 本時学習したことが身の回りに使われていないかを考えることができる。 |
5 | A・B・C・D・E・F・G・H・I・J・K・L |
6 | さらに発展的な内容に関しても学習していこうとする。 |
B算数複式授業を取り巻く「自ら学ぶ力」を鍛える場の確認
算数の授業だけでなく,すべての教育活動の中で「自ら学ぶ力」を培う場面を考えた。
朝の一言で全校児童の前で話す(毎朝) 朝の計算練習の様子(火曜)
朝の読書の様子(隔週金曜) 朝の活動全体の様子(全校)
C「自ら学ぶ力」の評価
各学級の児童が現時点でどこまで「自ら学ぶ力」が身についたのかを各担任が随時評価し,記録することで,今後授業でどのような指導手だてを打つべきかを考えた。
(2)研究内容に関わって
○自ら課題解決を進める複式学習過程の工夫
@目標・問題・課題・まとめ・出口の姿・評価規準の関連を明確にする
課題解決学習を進める上で,本時の目標(教師)・問題提示,本時の課題,本時のまとめ(児童)・出口の姿,評価規準(教師)の関連が大切になってくる。
まず,本時では児童にどんな力をつけたいのか,どんな授業をしたいのかを評価規準を基に具体的な言葉で表し,そのためには児童にどんな問題を提示し,どんな課題にし,まとめ方はどうすれば良いかを検討することで,児童自らが課題解決を進めることができるようにする。
A解決の見通しのもてる課題設定をする
問題提示から課題つかみまでの過程を大切にし,間接指導時において,自分たちで解決できるような手がかりをつかませてから,他学年に移る。
そのために次のことに気をつける。
・前時までの学習内容の定着を図る。
・今までの学習と本時との違いをはっきりさせる。
・学習の足跡を掲示等で残す。
・その他,自力解決できるような教材教具を準備する。
B学習リーダーの育成をする
間接指導時において学習リーダーを中心に学習を進め,自力解決や仲間との交流の場面で自ら学ぶ態度を育てる。そのために次のことを指導する。
・「で」「と」「に」学習の徹底をする
「まず自分で考え,次に友達と相談し,最後に先生にたずねる」という「でとに学習」をあらゆる学習活動の中で実践し,学習リーダーを中心とした自学自習の態度を養う。
・各学年の学習リーダーの願う姿を明確にする
間接指導時での仲間との交流の場面での願う姿を明確にし,それを目標にし1年を通して,どの子も学習リーダーがほぼできるように指導する。
・形式的な呼びかけや受け応えをしない
学習リーダーの呼びかけがマニュアル通りの形式的なものにならないようにし,また,学習リーダーに応える児童も形式的に受け応えるのでなく,その場の状況に応じて臨機応変に対応できるように学年に応じて教師が見本を示しながら学習リーダーの育成をする。
○一人一人を伸ばす意図的・計画的な指導
@指導案に各児童の「予想される反応と援助」を明記する
指導案に児童一人一人の予想される反応と教師の援助を明記し,意図的・計画的に個別指導を行う。
また学年の重点も決め,渡りも意図的に仕組んで指導にあたる。
A個に応じた教材教具の工夫をする
各児童の実態に合わせた教材教具を工夫し,開発する。
B児童の様子を定期的に記録し,指導にあてる
「自ら学ぶ力」の段階を設定し,現在の各児童の様子がどの段階まで達成しているかを評価,記録し,今後の指導の目標とする。
C「学習タイム」でさらに個別指導を強化する
放課後,週1時間程度の「学習タイム」を設け,児童がもっと勉強したいところを中心に個別学習を進める。これにより自ら学びたいという意欲を高めながら,基礎学力の充実を図る。
3 成果と課題
・学習リーダーを中心に間接指導時は自分たちで学習することの大切さを児童たちは理解してきた。そして,自力解決で問題を解くことができたら,交流までの時間に自らドリル学習を進めることができるようになってきた。
・交流の場面では,中学年以上でホワイトボードなどを効果的に利用し,自分の考えを仲間に伝えることができるようになってきた。
・学習リーダーの指示も形式的なものでなくなりつつあり,答えが一致しなかった場合などは各自でもう一度考え直すなど,臨機応変な対応がとれつつある。
・本時までの学習の要点を掲示することで,児童が本時の課題を解決するためのヒントとなり,自力解決の見通しをもてるようになった。
・児童の中で「でとに学習」を意識することができたが,仲間との話し合いや高まり合いを中心とする「と」の部分をさらに充実していく必要がある。